2022 Project

HUB-IBARAKI ART PROJECT 2022

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HUB-IBARAKI ART PROJECT 2022 開催概要

プロジェクト実施
開催期間

2022年4月~9月19日(月・祝)(約6か月間)

作家

武田 力(演出家・民俗芸能アーカイバー、1983年熊本生まれ)

作品

《教科書カフェ》

テーマ

「教育」をめぐる思索を、アートのまなざしから拡張する
-「パブリック」と「プライベート」を自由に行き来するために

プロジェクト内容

作品の発表および制作プロセスの公開、トーク、市民交流の取り組みなど、複数のプログラムを実施予定

チーフディレクター

山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)

ディレクター

山本 正大(少年企画)

事務局

茨木市文化振興課

主催

茨木市、アートを活用したまちづくり推進事業『HUB-IBARAKI ART』実行委員会

後援

公益財団法人 茨木市文化振興財団、一般社団法人 茨木市観光協会

ごあいさつ

『HUB-IBARAKI ART PROJECT 2022』は、作家公募で選出した東京在住の演出家・民俗芸能アーカイバーの武田 力(TAKEDA Riki, b.1983)と共に、4月から9月まで、6か月間のプロジェクト活動を茨木市内で展開します。
今年のプロジェクトでは、武田の作品・活動構想を基に、小学校の教科書を作品制作と活動のための素材の中心とし、私たちがこれまでに必ず、どこかで経験してきた「教育」を起点に広く物事を考える機会とします。市内の人々に呼び掛けて以前に使われていた過去の小学校の教科書を集めた後に、それらを一般に公開する「場」を作ることを目標に、この一連のプロセスとしての多くの活動を6か月の間に実践します。

「教育」をめぐる思索を、アートのまなざしから拡張する
-「パブリック」と「プライベート」を自由に行き来するために

今年の武田の作品は、「場」が出来上がれば成立するというものではありません。すべての取り組みの中で、教育を入口に広く自由な対話ができる環境が備わらなければなりません。子どもの頃を中心に様々な教育の場を体験していると思いますが、そこで学んだものは世代や育った家庭・地域によって大きく異なるはずです。茨木のまちは、戦後20世紀は京阪神のベッドタウンとして、21世紀に入ると大学の新設と拡張によって、全国各地から人々が集まり、住み着く環境になっています。世代も出身地も異なる人々が多く行き交ってきたこの地で、教育とアートを起点に各々が思考と対話を重ねることは、他者の違いに直面し、いまの茨木のまちを客観的に捉える機会にもなるだろうと考えます。

前提と見做されている物事を見つめ直し、そこからもっと先のことに心を巡らせることで、社会という大きな枠組みの中でいま私たちが何を考え、どう振る舞うべきかという迷いや悩みに向き合うきっかけにもなればと思っています。

これまでHUB-IBARAKIは、作家が茨木で発表する作品とその制作プロセスを介して、私たちの「プライベート」な環境にある「パブリック(公共)」な物事に気づき、茨木のまちと人々のいまとこれからを考える機会を創出することに努めてきました。今年の武田の作品とプロジェクト活動は、教育というパブリックの構造が典型的に現れるテーマを扱うことになり、「パブリック」と「プライベート」の境界をアートのアプローチでいかに自由に行き来できるものにしていくか、HUB-IBARAKIとして新たな試みに挑みます。

HUB-IBARAKI ART PROJECT
チーフディレクター 山中 俊広

選定作家

武田 力 [TAKEDA Riki]

©瀬尾憲司@はならぁと

1983年熊本県生まれ。現在東京都在住。

立教大学で初等教育学を学び、幼稚園勤務を経て、演劇カンパニー・チェルフィッチュに俳優として参加。欧米を中心に活動するが、東日本大震災を機に演出家となる。

「警察からの指導」「たこ焼き」「小学校の教科書」など日常に近い物事を素材とし、観客とともに現代を思索する作品を展開する。また、演劇の手法を用いた過疎集落における民俗芸能の復活/継承も各地で手掛け、その経験を活かして「農」と「アート」の関係性の実践を通して研究する奥八女芸農プロジェクトに参画する。近年はフィリピンの国際演劇祭・Karnabalや、中国・上海の明当代美術館で滞在制作を行うなど、その活動を拡げている。

2016、17年度アーツコミッション・ヨコハマ「創造都市横浜における若手芸術家育成助成」に選定。2019年度に採択を受けた国際交流基金「アジア・フェローシップ」では、フィリピンとタイにおける民俗芸能とアートの関係性をリサーチした。九州大学芸術工学部非常勤講師。


小学校での教育は、多くの人がかつて経験したことかと思います。しかし、みなさんの教育体験を丁寧に紐解いていくと、それはひとり一人で随分と異なります。教育とは、人間が生きていく上での普遍的な営みであると同時に、これまでの歴史を背景とした環境や年代の価値観によって、つまりはその歴史を解釈する人間によって変化します。世代間や地域間などに生じている分断は、もしかしたら経験してきた教育観の違いなのかもしれません。

この《教科書カフェ》では、日本各地/各時代に誰か子どもが使っていた何百冊にも及ぶ教科書を自由に読み比べたり、このカフェを訪れた人たちが書き込んでいくノートから他世代や他地域の考え方の源泉を探ります。追憶に眠る「小学生のあなた」の視点から、それより過去の、そして現在の教育のあり方を感じ取ること。その思索は、日本が歴史や時代をどう解釈し、どういう国民を育てたいと意図してきたかをたどる旅でもあります。日本には国による教科書検定があり、それに合格しなければ小学校をはじめとした公的な教育機関で用いることはできないからです。

《教科書カフェ》では、そうした教科書を通じて教育を受けるのではなく、教科書を素材に自ら学び発見していくことで、他者の理解をはかります。その先に、近年よく耳にする「持続可能な未来」はあり得るのではないでしょうか? 「わたしたち」を持続させるのは国ではなく、ひとり一人であるあなた自身なのです。

武田 力

開催プログラム・プロジェクト実施計画

※ 新型コロナウイルス感染症の動向により、開催日時・内容が変更になる場合があります。最新情報は公式サイト・SNSをご確認ください。
※ 期間中、新たなプログラムを追加する予定にしています。詳細は随時公式サイト・SNSでお知らせします。
※ 参加費は基本無料(一部実費が必要なものもあります)。特別な記載のないものは、参加申込不要です。
※「《教科書カフェ》の公開」は雨天時中止、小雨決行とします。開催可否の情報はSNSをご確認ください。
※ 《教科書カフェ》では、飲食を目的としたカフェ営業はしていません

メインプログラム

《教科書カフェ》発表と、その実現に向けた様々な取り組み
  開催期間|4月~9月[コア期間:7月~9月]

【プログラム/取り組みの項目】
(* 一般に公開・参加できるプログラムは、開催日時・場所が決まり次第随時発表します。非公開・限定参加のプログラムは、実施後公式サイトにレポートを公開します。)

A)「教科書」を集めるための活動
[公開イベントは5月~7月に月1日程度開催、非公開の活動も含む]

☆ 「小学校の教科書」収集のご協力のお願い

○ 「今年のプロジェクトの作品素材・資料の公開」
  日時|5月27日(金)16時~18時(* バトンタッチトーク開催前に実施)
  会場|クリエイトセンター[茨木市市民総合センター]1階 元喫茶店スペース

○ 「プレ《教科書カフェ》-作品制作のための素材・資料の公開」
  日時|6月18日(土)13時~17時
  会場|omo café + c 2階すみれの間 (茨木市本町6-10)

○ 《教科書カフェ》移動式書架展示+インフォメーションブース設置
  日時|2022年7月14日(木)~9月16日(金) 9:00~21:00
  ※ 7月25日(月)~8月1日(月)、8月16日(火)~18日(木)、9月17日(土)~19日(月)は、 
   作品発表活動で館外に移設するため、展示はありません。
  会場|茨木市福祉文化会館[オークシアター] 1階ロビー(茨木市駅前4-7-55)

B) 《教科書カフェ》の上演
[7月下旬、8月中旬、9月中旬に各3日、9日間茨木市内の複数の場所で開催予定]

【7月の公開日】
○ 7月29日(金)《教科書カフェ》お披露目&試験運転
  開催時間|10時~17時
  会場|IBALAB@広場を出発地とし、今後の公開場所(清渓公民館、石河公民館、忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘を巡回)

○ 7月30日(土)《教科書カフェ》at 清溪公民館
  開催時間|13時~17時
  会場|清溪公民館(茨木市泉原332-3)
  ゲスト|黒田 健太(ダンサー)

○ 7月31日(日)《教科書カフェ》at 石河公民館
  開催時間|13時~17時
  会場|石河公民館(茨木市大岩347-1)

【8月の公開日】
○ 8月16日(火)《教科書カフェ》at IBALAB@広場
  開催時間|17時~21時
  会場|IBALAB@広場・芝生(茨木市駅前4-4-8)
  ゲスト|池田 佳穂(インディペンデント・キュレーター)

○ 8月17日(水)《教科書カフェ》at 忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘
  開催時間|13時~17時
  会場|忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘(茨木市忍頂寺1049)

○ 8月18日(木)《教科書カフェ》at 忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘
  開催時間|7時~10時
  会場|忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘(茨木市忍頂寺1049)

☆ 【宿泊プログラム】8月17日(水)~18日(木)《教科書カフェ》合宿 at 忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘
  会場|忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘(茨木市忍頂寺1049)
  事前予約制/定員15名程度/宿泊にかかる費用のみ有料
  詳細はこちらをご覧ください→https://hub-ibaraki-art.com/news/220817/

【9月の公開日】
○ 9月17日(土)《教科書カフェ》at 石河公民館
  開催時間|13時~17時
  会場|石河公民館(茨木市大岩347-1)

○ 9月18日(日)《教科書カフェ》at IBALAB@広場[※台風により17~21時の回は中止]
  開催時間|8時~10時、17時~21時[※「茨木芸術座談会 2022」を18~20時に開催]
  会場|IBALAB@広場・芝生(茨木市駅前4-4-8)

○ 9月19日(月・祝)《教科書カフェ》at IBALAB@広場[※台風により中止]
  開催時間|17時~21時
  会場|IBALAB@広場・芝生(茨木市駅前4-4-8)

C) 「教育」を起点に、広くものごとを考えるための対話、座談会、ワークショップ
[《教科書カフェ》上演時の他、期間中随時開催]

©瀬尾憲司@はならぁと

「教育」という主題を起点とした武田力の作品《教科書カフェ》が、プロジェクト期間中に茨木市内に立ち上がることを目指し、その実現のための大小さまざまな取り組みとそのプロセスを可視化することを目的とします。

「教育」は、パブリックとプライベート双方の価値観に大きな影響を与えている社会の構造であり、一人一人の価値観にも違いや強弱が必ずある概念でもあります。プロジェクト活動の中で、異なる価値観が一方的に排除されず、それぞれが保たれるように、伝えることの積み重ねを重視して取り組むプログラムです。

茨木市内での小学校の教科書の募集活動から、活動の協力へ向けた交渉、活動への周知と理解のための茨木の人々との対話とワークショップの場の創出などを経て、《教科書カフェ》の制作・公開へと至るプロセスの中で、公開/非公開のプログラムを随時実施します。

《教科書カフェ》の上演は、移動型の形態で茨木市内各所で展開します。最終的には、様々な時代・地域の教科書が一堂に集まり、世代や立場が異なる人々がその場に集い、「教育」を起点に私たちの身の回りのあらゆるものごとについての対話が、対等にかつ建設的に立ち上がる環境を創出することを目指します。

制作協力|西山 広志(NO ARCHITECTS)、遠藤 倫数(neo projects & laboratory)、米子 匡司、タカハシ ‘タカカーン’ セイジ(すごす/センター/家/AIR)
助成|全国税理士共栄会文化財団

関連プログラム

※ 新型コロナウイルス感染症の動向により、開催日時・内容が変更になる場合があります。最新情報は公式サイト・SNSをご確認ください。
※ 事前予約制のプログラムの参加申込方法は、後日公式サイト・SNSでお知らせします。

バトンタッチトーク 黒田 健太×武田 力

開催日時|5月27日(金)16時~20時
会場|クリエイトセンター[茨木市市民総合センター]1階 元喫茶店スペース
ゲスト|黒田健太(ダンサー、HIAP2021選定作家)
参加無料・予約不要

タイムスケジュール|
16:00~18:30 今年のプロジェクトの作品素材・資料の公開 
18:30~20:00 バトンタッチトーク

前半は、武田が本プロジェクトで制作・発表する作品素材や資料を公開し、来場者が武田との対話を楽しむものとし、後半は、昨年の発表作家黒田健太氏を迎えての武田との対談、今年のプロジェクトの活動計画・プログラムスケジュールの発表をおこないます。概要の説明もおこないます。

茨木芸術座談会 2022 [※台風により順延、開催日時・会場は決まり次第ご案内します]

開催日時|9月18日(日)18時~20時
会場|IBALAB@広場・芝生(茨木市駅前4-4-8)
参加無料・予約不要

クロージングトーク [※台風により順延、開催日時・会場は決まり次第ご案内します]

開催日時|9月19日(月)18時~20時
会場|IBALAB@広場・芝生(茨木市駅前4-4-8)(* 雨天時は茨木市男女共生センターローズWAM4階セミナー室)
ゲスト|はが みちこ(アートメディエーター、京都市立芸術大学芸術資源研究センター非常勤研究員)
参加無料・予約不要

作家選考について

公募期間|2022年1月5日(水)~2月22日(火)
審査会|2022年3月1日(火)

公募内容につきましてはこちらをご覧ください。 https://hub-ibaraki-art.com/opencall/2022/

【作家公募 審査員】
木村 光佑(版画・彫刻家、京都工芸繊維大学名誉教授・元学長、茨木美術協会会長)
雨森 信(Breaker Projectディレクター、大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)
平田 剛志(美術批評)
はが みちこ(アートメディエーター、京都市立芸術大学芸術資源研究センター非常勤研究員)
山中 俊広(HUB-IBARAKI ART PROJECTチーフディレクター、インディペンデント・キュレーター)

選考会 経過と講評

今回の作家公募には、全国から20名の応募が集まりました。前回の26名からは減少しましたが、一昨年度以前の応募者数と比べると多くの方々にご応募いただきました。全体的な応募内容の質も例年より高く、当プロジェクトの知名度だけでなく、活動の方向性への理解の高さも実感できたのは大変嬉しいことでした。応募者全体の傾向としては、前回の公募で初めてパフォーミングアーツの作家を選んだことから、同ジャンルの方々の応募数が増え、また映像作品の提案も目立つなど、近年の応募者の作品の傾向から大きく様変わりしました。

審査会は、3月1日(火)の午後に茨木市役所で実施し、5名の審査員で進行しました。まず、一次選考では提出された資料が6つの審査基準を一定レベルで満たしており、かつ二次選考で検討したい応募者を各審査員5名ずつ推挙することとし、2名以上の推挙があった7名の応募者を二次審査に進めることとしました。
二次選考では、7名の応募者の作品・活動プランについて、それぞれ評価する点と懸念する点を審査員全員で出し合い、議論をおこないました。一次審査で審査員の過半数となる3名以上の推挙があった6名の応募者に絞ることとし、各応募者についての議論の後、その中から各審査員が2名に票を投じました。そして1名のみ満票を得た武田力さんを、今年の選定作家に決定しました。

武田さんの提案には、教科書を作品制作の素材の起点にし、教育について考えるというユニークな枠組みをはじめ、場を作ることへの意欲が強い活動プランであること、また本プロジェクトが毎年目指している新たなジャンルの人々との関わりや接触も見込まれる要素が随所に見られました。さらに、昨今の社会情勢の変化に呼応して様々な価値観や考え方を深められる可能性、茨木のまちの範囲に留まらない「パブリック」へのまなざしを提示できる可能性を有していることを高く評価しました。特にこの3年、私たちがアートプロジェクトとして意識して向き合ってきた「パブリック」の視点をさらに究めていくためには、武田さんの提案が最も適していたと判断しました。

総評として、例年以上に綿密な作品・活動プランが多く、個々の提出資料に多くの議論が交わされて、選考に難航したと同時に充実した選考会になりました。本プロジェクトのコンセプトの主軸であるアートとパブリックの関係について深く考え抜いた跡のあるプランが多く、半年間の活動プランが細かく提示されたものや、茨木の人々との交流にも積極的なアプローチのものも目立ちました。また、今回大きく増えたパフォーミングアーツ系の応募者には、プレゼンテーション力に長けたものが多くあった一方で、これまでの公募で一番のシェアを占めていた美術系の応募者のものがやや見劣りするという印象もありました。とりわけ、応募用紙に記入する茨木のイメージについての項目で、選定作家に選ばれた武田さんの内容が大変優れていたというご意見がありました。ベッドタウンなどの地理・生活環境の特徴を表層的に述べるだけのものが例年大半を占めていた中で、武田さんの文章は文献も参照しながら、茨木の分析を自らのプランに沿いながら客観的に論じていたことは、今後本格的に現地でリサーチをおこなう上での大きな信頼を得られるものでした。

最後に、今回の作家公募と4月から始動する次回のプロジェクトをもって、現在のこの枠組みと仕組みでの実施は一区切りとすることにしました。そのため、今後実施されるであろう作家公募に、これらの内容が全て参考になるとは言えませんが、茨木のまちや人々に向けて先鋭的なアートの取り組みが継続して実行できる環境は、現在検討中の次のプロジェクト計画でも保っていきたいと考えています。現体制で取り組んできた4年間の集大成として、さらに次のHUB-IBARAKIの布石にもなる、武田さんと協働する4月からのプロジェクト活動にぜひご期待ください。

HUB-IBARAKI ART PROJECT
チーフディレクター 山中 俊広

ABOUT

HUB-IBARAKI ART PROJECT

「HUB-IBARAKI ART PROJECT」は、「継続的なアート事業によるまちづくり」を目的に、大阪府茨木市で実施するアートプロジェクトです。茨木市に暮らす人々が、アート作品・作家との交流を通して、アートの本質的な魅力である「表現の豊かさ/美しさ」「探求心」に触れて、その体験をそれぞれの日常の中へ還元していくことのできるアートプロジェクトを目指します。