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HUB-IBARAKI ART PROJECT 2022 選定作家発表

3月1日(火)に茨木市役所にて、5名の審査員と作家公募の選考会を実施しました。 20名の応募者から厳正な選考をおこない、東京都在住の演出家・民俗芸能アーカイバーの武田力さんを、「HUB-IBARAKI ART PROJECT 2022」の選定作家に決定しました。

©瀬尾憲司 @はならぁと

武田 力 [TAKEDA Riki] 演出家・民俗芸能アーカイバー

1983年熊本県生まれ。現在東京都在住。
立教大学で初等教育学を学び、幼稚園勤務を経て、演劇カンパニー・チェルフィッチュに俳優として参加。欧米を中心に活動するが、東日本大震災を機に演出家となる。

「警察からの指導」「たこ焼き」「小学校の教科書」など日常に近い物事を素材とし、観客とともに現代を思索する作品を展開する。また、演劇の手法を用いた過疎集落における民俗芸能の復活/継承も各地で手掛け、その経験を活かして「農」と「アート」の関係性を実践を通して研究する奥八女芸農プロジェクトに参画する。近年はフィリピンの国際演劇祭・Karnabalや、中国・上海の明当代美術館で滞在制作を行うなど、その活動を拡げている。

2016、17年度アーツコミッション・ヨコハマ「創造都市横浜における若手芸術家育成助成」に選定。2019年度に採択を受けた国際交流基金「アジア・フェローシップ」では、フィリピンとタイにおける民俗芸能とアートの関係性をリサーチした。九州大学芸術工学部非常勤講師。


作家公募 選考会 経過と講評

今回の作家公募には、全国から20名の応募が集まりました。前回の26名からは減少しましたが、一昨年度以前の応募者数と比べると多くの方々にご応募いただきました。全体的な応募内容の質も例年より高く、当プロジェクトの知名度だけでなく、活動の方向性への理解の高さも実感できたのは大変嬉しいことでした。応募者全体の傾向としては、前回の公募で初めてパフォーミングアーツの作家を選んだことから、同ジャンルの方々の応募数が増え、また映像作品の提案も目立つなど、近年の応募者の作品の傾向から大きく様変わりしました。

審査会は、3月1日(火)の午後に茨木市役所で実施し、5名の審査員で進行しました。まず、一次選考では提出された資料が6つの審査基準を一定レベルで満たしており、かつ二次選考で検討したい応募者を各審査員5名ずつ推挙することとし、2名以上の推挙があった7名の応募者を二次審査に進めることとしました。
二次選考では、7名の応募者の作品・活動プランについて、それぞれ評価する点と懸念する点を審査員全員で出し合い、議論をおこないました。一次審査で審査員の過半数となる3名以上の推挙があった6名の応募者に絞ることとし、各応募者についての議論の後、その中から各審査員が2名に票を投じました。そして1名のみ満票を得た武田力さんを、今年の選定作家に決定しました。

武田さんの提案には、教科書を作品制作の素材の起点にし、教育について考えるというユニークな枠組みをはじめ、場を作ることへの意欲が強い活動プランであること、また本プロジェクトが毎年目指している新たなジャンルの人々との関わりや接触も見込まれる要素が随所に見られました。さらに、昨今の社会情勢の変化に呼応して様々な価値観や考え方を深められる可能性、茨木のまちの範囲に留まらない「パブリック」へのまなざしを提示できる可能性を有していることを高く評価しました。特にこの3年、私たちがアートプロジェクトとして意識して向き合ってきた「パブリック」の視点をさらに究めていくためには、武田さんの提案が最も適していたと判断しました。

総評として、例年以上に綿密な作品・活動プランが多く、個々の提出資料に多くの議論が交わされて、選考に難航したと同時に充実した選考会になりました。本プロジェクトのコンセプトの主軸であるアートとパブリックの関係について深く考え抜いた跡のあるプランが多く、半年間の活動プランが細かく提示されたものや、茨木の人々との交流にも積極的なアプローチのものも目立ちました。また、今回大きく増えたパフォーミングアーツ系の応募者には、プレゼンテーション力に長けたものが多くあった一方で、これまでの公募で一番のシェアを占めていた美術系の応募者のものがやや見劣りするという印象もありました。とりわけ、応募用紙に記入する茨木のイメージについての項目で、選定作家に選ばれた武田さんの内容が大変優れていたというご意見がありました。ベッドタウンなどの地理・生活環境の特徴を表層的に述べるだけのものが例年大半を占めていた中で、武田さんの文章は文献も参照しながら、茨木の分析を自らのプランに沿いながら客観的に論じていたことは、今後本格的に現地でリサーチをおこなう上での大きな信頼を得られるものでした。

最後に、今回の作家公募と4月から始動する次回のプロジェクトをもって、現在のこの枠組みと仕組みでの実施は一区切りとすることにしました。そのため、今後実施されるであろう作家公募に、これらの内容が全て参考になるとは言えませんが、茨木のまちや人々に向けて先鋭的なアートの取り組みが継続して実行できる環境は、現在検討中の次のプロジェクト計画でも保っていきたいと考えています。現体制で取り組んできた4年間の集大成として、さらに次のHUB-IBARAKIの布石にもなる、武田さんと協働する4月からのプロジェクト活動にぜひご期待ください。

HUB-IBARAKI ART PROJECT チーフディレクター 山中 俊広

【作家公募 審査員】
木村 光佑(版画・彫刻家、京都工芸繊維大学名誉教授・元学長、茨木美術協会会長)
雨森 信(Breaker Projectディレクター、大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)
平田 剛志(美術批評)
はが みちこ(アートメディエーター、京都市立芸術大学芸術資源研究センター非常勤研究員)
山中 俊広(HUB-IBARAKI ART PROJECTチーフディレクター、インディペンデント・キュレーター)